さあ、瞳が映すその先に

どんなに忘れたくないと思う瞬間でも、記憶はどんどんと薄れていくことがずっと嫌でした。自分の記憶のはずなのに、月日が経てば経つほどそれが本当に起こったことなのかどうか自信がなくなっていくことも本当にやっかいだし悲しいことだなあと常々思っていました。自分が見たものも、感じた気持ちも真空パックで保存できればいいのに。


あの日のわたしはとても気が散っていて、違うことばかり考えていました。
なんてタイミングが悪いんだ、とは自分勝手な言いがかりですが、自分の根幹である大切な人たちのアニバーサリーと、自分が一番熱を持って見ている人の初めての主演舞台が重なっていて。「初めての」主演舞台は一度しか訪れない大切なものだと頭ではわかってはいたけれど気もそぞろで。
そんな状態で舞台の幕が上がって。本人の姿を見ても、正直、メインだという実感はまったくわきませんでした。双眼鏡で覗く景色はいつもと同じ。丸く切り取られた視界の真ん中で歌って踊って演技をする人は、いつもと同じわたしの好きな人で。好き、かっこいい、かわいい、大好き、それだけでした。初主演だなんて、もっと感激したり涙ぐんだりしちゃうのかなと思っていたのに、なんて薄情なんだろう、とかぼんやりと考えたりもしていました。
それでも、いつのタイミングだったかな。劇中のHEARTBREAK CLUBかな。突然、「あれ、今まで他の舞台ではこんなに広々と動き回っていたっけ」とぼんやり思って。そこで唐突に自分の中で「主演」という言葉が降ってきました。そうだ、こういうことだ、って。舞台の上を縦横無尽に動き回って、すごく気持ち良さそうなイキイキとした顔を見て、ああ、うれしいなって。こんな顔を見ることができて幸せだなって。初日の会見で「(前に)誰もいない景色がきれいでみんなとても興奮しています」と言っていたのをワイドショーで見たけれど、今がまさにその誰もいない景色なんだなあって。こんなに気持ち良さそうにのびのびと歌って踊るなんて、こんな素敵な顔をわたしは今まで知らなくて*1、ただひたすらに「こんな顔を見ることができるなら、これからももっとこういう機会に恵まれますように」と祈ることしかできませんでした。
あれだけ気持ちが散らかっていたのに、ということから考えると、本当にすごい衝撃でした。これから先の未来を願わずにはいられない。
たくさんの好きな人を気ままに見てきた9月だったけれど、その「好き」の種類にも微妙な違いがあって、頭が真っ白になるくらいの、心の底から果てなく溢れ出す「好き」の栓をいともたやすく抜けるのは、今はきっとただひとりだけだろうなと感じた公演でした。


初めてのメイン公演お疲れさまでした。夢見る未来を捕まえられる日がきますように。この舞台がそれにつながりますように。どうか、あの表情もそのときのわたしの気持ちも、わたしのこの記憶から消えてしまうことがありませんように。

*1:クリエの単独には行ってないから