some girl(s)

講師の仕事をしながら、小説を書いている主人公。
婚約者との結婚を前に、アメリカ各地を旅行し、昔の恋人達に会いに行く。
結婚という人生の大きな1歩を踏み出すにあたって、過去に、かつて自分が傷つけてしまったであろう恋人達とそれぞれ会い、どうにかして償い「間違いを正したい」と思っている。しかし女性達は、突然の男性の訪問に戸惑い、あまり歓迎していない様子。

物語、つまり男の旅が進行するうちに、次第に見えてくる様々な事実。


── 女性達がずっと胸に秘めていたもの、男に求めたそれぞれの償いのかたちとは?
── そして、男の本当の目的は何なのか? 果たしてこれは誰のためなのか?
(公式HPより)


以下、簡単なお話の流れとわたしなりにどう感じたかという解釈。
セリフは記憶の糸を手繰り寄せて書いてるので結構曖昧です。


Part 1
サム(高校時代)/ シアトル

  • 双方にとって「初めて」の相手
  • 男とは2年とちょっとの付き合い
  • 現在は結婚しており2人の子供がいる
  • 「子供たちがただいまって帰ってくる瞬間が好きだから、その時は家にいなくちゃと思うの」
  • 夫はスーパーの経営者(おそらくサムの父が先代)
  • 「しょっぱいもの好きだったじゃない。いっつも注意したのに」
  • 「私の知っているあなたはそんなことするような人じゃなかったわ」
  • 「私たちは2人で付き合おうって決めたし、金曜の夜に見る映画も2人で決めたわ。けれどあなたが、終わらせたのよ」
  • 「あのスーパーのベストを着て雇われ店長になる未来が見えてしまった」ことが別れの原因
  • そして現在のサムは男の予想通りになっている

冒頭はお互い探り探りなこともあってか、ギクシャクしているものの雰囲気は悪くない。
ひたすらなぜ自分が呼ばれたのかわからず困っているサムと、水がどうのとかカシューナッツとかがどうのとか話をするばかりでなかなか本題に入らない男。
「僕たち2人がどうしてだめになってしまったのか。そして君がその…大丈夫かどうか、とか…」と口ごもる男に「大丈夫か!?ええ、大丈夫よ、ありがとう。あと、僕たち2人じゃないわ。あなたが、終わらせたのよ」と次第に感情が高まっていくサム。

サムは恐らく自分の今の生活に特に不満はなかったんだろうと思う。けれど男からの突然の呼び出しにいろいろと自分なりに理由を想像してホテルまでやってきた。それこそ「一緒に逃げようって言われるんじゃないか」とか思ったりしながら。しかしそれに対して「君がそう思ってくれてるなんて本当に嬉しいよ。僕は全く…(そんなつもりじゃなかったのに)」ってかわいいかわいいお顔で言ってくるのが男の悪い癖なんだろうな。決して無下にはしない。一瞬「受け入れられた?」って勘違いしてしまいそうな笑顔であっさりと突き放す。しかもそれが計算じゃなくて、ひたすら素直なだけっていう。素直、といえば「今はどこにいるんだか知らないけど」っていうサムの嫌味に「ニューヨーク。今はブルックリンに住んでる」って返してくるのもムキー!ってなる。素直か!そういうの聞いてるんじゃないわ!っていう。

自分は家庭も持ってそれなりに幸せに暮らしてると思っているサムの表面が、今日のこの再会は男からの甘い誘惑かもしれないって思ってたことを白状したり、高校2年のときに一緒にプロムへ行ったのはどこの誰か教えろと詰め寄ったりしながら少しずつ剥がれていって、もうボロボロだというところで男は最後の最後に「言ったっけ?もうすぐ結婚するんだ」って大したことないことを伝えるような顔してトドメを刺すんだよね。ひたすらにずるい男。

見ながらとにかく伝わってきたのは、サムの真面目さが男には退屈で重くて嫌だったんだろうなということ。なかなか本題に入らない男が「ごめん、ピーナッツがしょっぱいとかどうでもいいよね!」と言うと「カシューナッツ、ね」と訂正してきたり、「雇われ店長になる未来が見えてしまったんだ」と言うと「主人はスーパーを経営してるの、経営者よ!」と訂正してきたり、きっちりしてるということなんだろうけど、そういう細かさが男は嫌だったんだろうなあ。実際にうんざりした顔をしていた。サムも「怒っている」ということを匂わせるためにわざとつっかかっているようでもあったけど。そういえば最初のセリフ「いつだって、そう。この辺りはもう激混み!」でフリーウェイが混雑していたことは匂わせてるのに、遅刻しなかったことについては「当たり前でしょ」と答えていることからも、きっちりしてる性格だってことを言いたいんだろうな。

あと、サムは一度激昂して男をビンタしそのまま部屋から出て行くんだけど、戻ってくるなり「本当にごめんなさい…こんなのって…子供みたいじゃない」って自分自身戸惑っているように言ってたのも印象的だった。根っからの真面目だけど無意識の真面目ではなくて自分をきっちり律するタイプなんだろうなって。ちなみに男は出て行ったサムを追いかけもしなければ、何てことないような顔をしてサムの置いていった飲み物をゴミ箱に捨てテレビをつける。男にとっては今のサムはたったそれだけなのか、寂しいな…

サムの重さに関しては男が一緒にプロムに行った相手を問い詰める場面が最もわかりやすいと思う。

「ねえ、その子何ページ?」
「え?」
「卒業アルバムよ!その子何ページに載ってる?」
「そんなの覚えてないよ…」
「ねえお願い」
「後ろのほう、かな…名前はウォーカー。なんとかウォーカー」
「…なんとかウォーカー…ありがとう」

必死になってまとわりつき問いただすサムに心底うんざりした顔をしていた男。きっと適当に答えてるんだろうな……


Part 2
タイラー(大学院時代)/ シカゴ

  • 付き合っている時に「2人の秘密の大実験」をした(そのことを男の小説でも書いている)
  • 喫煙者
  • デザイン系の仕事をしている
  • 男の言う文学的な比喩表現が理解できない
  • 通話記録から男がL.A.に電話をかけては出る前に切っていたことに気付いていた
  • 「ずっと誰かの2番目でいるのってすっごくつらいんだよ…?」

「結婚?すごいじゃない!すっごく素敵!!」というセリフから始まるタイラーのパート。
それにも関わらず自ら男にキスをしたりねだったり、それ以上のこともしようと何度も誘うことからタイラーの奔放さが伝わってくる。それを「貞操を守るため」「彼女(フィアンセ)を守るため」「内緒にしても僕自身が知ることになるから」と言葉を変えながら断る男。サムとのパートでは完全に優位に立っていた男が少しオロオロしている変化が面白い。

タイラーが「ここタバコ大丈夫?」って聞くシーンがあるんだけど、「ああ、うん。大丈夫。喫煙OKの部屋を取ったから。ただ、灰皿がないね…」ってぎこちなく答える男を遮るように「ああ大丈夫。グラス使うから」って飄々と答えるんだよね。それに何も答えないけど「はあ?」みたいな顔をする男。タイラーの奔放さは好きだったんだろうけど、奔放すぎてついていけなかったんだろうな、と。自分は吸わないのに禁煙の部屋を取ったのをタイラーのためにというようなことを言ったり、タバコの煙を嗅いで「煙の匂いが好きなんだよね。はあ、いい匂い」とか言ったりしていたけど、そもそもこれは本当に喫煙OKな部屋なのか…?灰皿もないし…そもそもタイラーが愛煙家だってこと忘れてたんじゃ…とも思ってしまった。でも愛煙家の自分のためにタバコを吸わない男が喫煙OKの部屋を取ってくれたことに対して少し嬉しそうにも見えるような表情をするタイラー…

もちろんタイラーは男のことがすごく好きだったんだろうけど、前面に「好き」を押し出すタイプじゃなくて、そういうところが男には伝わらなかったんだろうな。後半「L.A.の彼女」の話をしながら「君と、あんなことやこんなことをするために別れてしまった彼女に申し訳ない」とか「今気付いたよ!本当は…(彼女の方が好きだったんだ)」とかタイラーに向かって言ってしまう男。全然申し訳なさそうでもなく、むしろ友人と討論しながら真実に近づいた清清しさのような空気を漂わせながら。その辺も男の素直さが悲しい。

タイラーはずっと飄々としていて男をリードしているような雰囲気を出しているんだけど、話が進むにつれて次第に男に背を向けて泣きそうな顔になっていく。男の言葉を反芻し「全然違うから!」と突然振り返り怒りと悲しみを露にしてそのまま男の肩をかなり強く叩くんだけど、その後すごく優しく叩いてしまったところを撫でるんだよね。今でも好きなんだろうなあ。それが悲しくて切なくてすごく好きなシーン。

男は文学部の講師ということもあるけれど、話している最中に文学的な比喩を挟んでくる。タイラーとの場面でも「ドン・キホーテ」や「青ひげ公」の話が出てくるし。それを聞いてちょっとムッとしながら「誰、それ」と聞くタイラー。自棄っぽく笑いながら「私、あなたの言ってること、意味わかんなかった」って言うんだよね。男の言うことが理解できない悲しさと自分の無知を嘆く悲しさとそれでも男が好きだという悲しさ。

でもそんな悲しさを滲み出してはいるもののタイラーは“タイラー”に戻る。最後は「じゃあ、舌はなしだよ。あと、それから…」と囁きあいソファに沈みながらキスして暗転。


Part 3
リンゼイ(講師時代)/ ボストン

  • 男が講師になりたての頃に不倫をしていた(男の雇い主の妻)
  • 男との関係が露見した後、男はボストンから逃げる
  • 彼女の夫は不倫を知るが許し、離婚はしていない
  • 講義の合間にホテルで落ち合い逢瀬を楽しんでいた
  • 男がベッドの中でしてくれる未来の話が好きだった

リンゼイが男に早口でまくし立てているところからスタート。男が話をしようとするのを遮って話したり、水を飲むタイミングを待って話かけられなかったり、ここまでかろうじて男が主体で進んできたペースをことごとく乱される。極めつけに、今日のことは旦那に話していること、それを踏まえて旦那自ら「行ってこい」と送り出されたこと、このホテルまで車で送ってくれたこと、今も駐車場で待っていることを告げる。今までの淡々とした様子からは一転しひたすら慌てる男。
リンゼイ(とその旦那)の目的は今日ここで男とリンゼイが寝ることによってフィアンセを裏切らせ、男にもフィアンセを裏切った今日のことを忘れないでいさせるという復讐。
一枚一枚服を脱いでいくリンゼイに「こんなのおかしいよ!」「できないよ!」と慌てながら喚く男。結局下着姿になり、ベッドに寝かされ目を瞑らされる。ベッドに横たわり2人の思い出話を話すよう促され目を瞑ったまま話す男。その隙に黙って部屋から出て行くリンゼイ。

ここまで自分のペースをまもってきた男が初めて後手後手に回るのがおもしろい。
「私、あなたとダメになった1番の理由は…もちろんそれだけじゃないと思ってるけど、私のこの年齢だと思ってるの」と言うリンゼイとか、男のフィアンセが23歳だと知って嘆くリンゼイとか、男との年齢差をとにかく気にしていたんだろうなというところから、イコールそれだけ男のことが好きだったという表れなんだろうと思えて、そんなリンゼイが可愛らしい。

「可愛い顔をして人を傷つける天才」で「目を瞑ったままでも人を傷つけられる」男だとリンゼイは男を評するんだけど、それは今までにも多分に見えてきた男の素直さなんだろうね。オブラートに包む優しさとかじゃなくて、ただ素直に思いを口からこぼし、それが相手を傷つける。でも本人は素直さゆえにそれが人を傷つけることも相手が傷ついていることにも気付かない。…たちが悪い……けど、もしかしたらその素直さが魅力だったりもするんだろうか…

最後、2人の思い出を話す男を置いて部屋からそっと出て行くリンゼイが立ち止まって男の方へ振り返るんだけど、あれはかつて愛した男への未練かな。それとも哀れみかな。


Part 4
ボビー(大学時代)/ L.A.

  • 双子の姉がいる
  • 医療関係の仕事をしている
  • 大学のカフェテリアで向かいのテーブルの女の子が魅力的に見えて、男がボビーの元へ帰らなくなった

今まで時系列どおりだったのが、ここで大学時代までさかのぼる。
タイラーの言っていた「何度もL.A.に電話をかけている発信記録があった」というのがおそらくボビーへの電話。男自身もボビーに「なんで連絡くれなかったの?」と聞かれ「何度も電話したんだ!…ただ、どうしても怖くなって出る前に切ってしまっていたけど…」と答えているし。このやりとりからもボビーへは次の彼女が出来た後も気持ちが残っていたことがうかがえる。ただ、ボビーが「私にずっと好きなままでいられても困ったでしょ?」って聞いたときに肯定してしまう男が…なんとも…

ボビーの性格として「疑り深い」というのもある。冒頭のシーンから「明日じゃなかったっけ?」「エレベーターで明日だったらどうしようって帰ろうかと思っちゃった。メモ忘れてたから」等、男との待ち合わせが本当に今日で合っていたのか何度も何度も確認したり、男がボビーの双子の姉のことを好きだと言い張ったり。あれだけ素直にぽろっと何でもこぼしてしまう男が一度もボビーの姉との関係は認めなかったから、本当に何もなかったんじゃないかな…とにかく双子の姉という存在に不安がりキツく当たるというにしてはしつこいほど姉の存在を会話にチラつかせるボビー。それを否定する男。それでも疑うことをやめないボビー。そのうちお互いかなり興奮状態になり怒鳴りあうようになる。
怒鳴りあい、もみ合ううちに男が間接照明のランプにぶつかり、その陰に隠されたマイクを見つけるボビー。男は今までの自分の恋愛の失敗を小説のネタにしてみたところ雑誌に取り上げられ思った以上に売れたため、新たなネタ探しにということで今回の元カノに会うという旅をしていた。全てがばれてしまい、ベッドに飛び乗ったり貧乏ゆすりをしたりしながら涙を流し思いを叫ぶ男。

「ただのクズだろうと、勇敢なる魂の設計者だろうとどっちだっていいんだ!」
「僕がしたことで誰かが傷つくなんてどうでもいい!」

そして「今気付いたよ!本当に愛してるのは…!他の誰でもない!これから結婚する彼女でもない!君なんだ!!」と叫ぶ男。何も答えず、何の表情も持たない目で男を見るボビー。

「何か…言ってもらえるとうれしいんだけど…」
「もう…遅いよ…」
「それは…比喩的な意味でかな?」
「…時間も、もう遅い」

今まで「ここで上手く言えば丸く収まるのに」というような場面*1でもポロポロと本音がこぼれてしまっているのを見ると、このボビーへの告白は恐らく本心なんだろうと思う。タイラーとの場面でもボビーへの愛に気付いたような描写はあったけれど、きっと本人的にはここでようやくというか、やっと気付いた。でも「遅すぎる」。このとき、茜色の照明が夕日のように差し込んできていて、男の切なさやボビーの切なさが痛切に感じられた。寂しくて悲しくて辛くて切ない光の中、そっと立ち去るボビー。
一人残された男は涙を流したままネクタイを外し、隠してあったレコーダーを取り出して再生する。この場面になると、さっきまで寂しくて辛くて悲しいだけだったあの茜色の光が、急に懐かしさも醸し出しているように感じられたから照明ってすごいと思った。まだボビーが自分の目の前にいた数分前、まだボビーに自分の本心をさらけ出す前、それを懐かしがりながら同時に自分自身を嘲笑しているような男。そして男は再生をやめ、一心にテープを引き出す。と、そこに男のフィアンセから電話がかかってくる。涙をぬぐい「君に話したっけ?」とL.A.の様子を微笑みながら話す男。そのままペンを手に取り、さっきまで自分で引き出していたテープを巻き直し始める。

「えっ?愛してるよ。本当に、愛してる。愛してるよ。これからもずっと…いつだって…」


完全なる想像だけど、もしかしたら男はボビーに愛など告げる気はなくて、そもそも「本当に愛しているのはボビーだ」とすら気付いていなかったのかもしれない。だけど気が付いてしまったボビーへの気持ちは言い合ってるうちについ口に出てしまってそれで改めて自分自身ハッとして。でも話は録音してしまっているし、そのことでボビーはなおさら完全に離れていってしまって。「愛している」と叫んだとき、もしかしたら男は本当に一瞬だけど「受け入れられるかも」と思ったのかもしれない。だから去っていったボビーを見る男はあんなに痛切な表情だったのかな。「受け入れられるかも」と思ったのに結局はピシャリとはねられるだなんて、サムと対峙していたときの男そのものだね。すごい皮肉だな。
皮肉といえば、サムとの場面では水を飲むことで自分のペースを作っていた男が、リンゼイとの場面では水を飲む時間を待つことでペースを乱されていたことや、「私、ここにいるわよ。ちゃんと見て。」とリンゼイに言われていた男が逆にボビーには必死に「僕を見て!お願いだから!」と叫んでいたのも全部皮肉だなと思った。

サムとのパートでは「夕方の飛行機もとってるし」と既にきちんと予定立てていたのに、ボビーとのパートではフィアンセに電話で「今日の便で帰ることにした」って伝えてるんだよね。やっぱりボビーは男にとって本当に特別だったんだな。今回の旅の目的を最初にボビーに説明しているときも

「今まで自分が付き合ってきた彼女たちをリストアップして、誰に会いにいこうかって考えたんだ。トーナメント戦みたいなものだよ」
「あらそう!じゃあ、それに残れてよかったわ!」
「何言ってんの!君は1番に決まったよ!ぶっちぎりだ!」

って何の曇りもないような笑顔で言ってたもんね。しかし、そういうことを本人の前で言っちゃうことがやっぱり男の素直さなんだろうな…言うなよ…

ボビーは男が好きだった家具屋の商品券を結婚祝いに渡すんだけど、その辺がなんとも切ないというか女の意地だなあと思って見ていた。「いいよ…」と断る男に「無駄にしないでくれる!?」と言い、無理矢理男の胸ポケットの商品券をしまう。この商品券が、後にボビーと派手にもみ合う時に男の胸ポケットから落ちてその後ずっと床の上に放置されるんだよね…お互いに大切だったのにすれ違ってしまって置き去りにされたボビーや男の思いみたいだなあと思った。


この舞台は全部で4つのパート(会いに行ったのは5人だけど会ってもらえなかったらしい)から成るんだけど、それぞれが上手く起承転結になっているなーというのをこれ書きながら気付いた。
サムは申し訳ないけど完全にジャブで完全に男の思惑通りにことが進んでいる感じ。もちろん付き合っていたときは好きだったんだろうけど今はもう何とも思っていないんだって男の表情から嫌というほど伝わってくる。きっとこれがベースでずっとこんな風に小説のネタを拾い集めていくつもりだったんだろうな。タイラーも割と思惑通りなんだけど、サムを経たことで男の人となりみたいなものが少しずつ見えてくる。リンゼイで初めて女性に優位に立たれてボビーでは全てが露呈する。

なんとなく4人の元彼女と男を見てみると、サムと対面している男はひどく退屈そうで、そんな退屈さが嫌になってタイラーの刺激を求めたんだろうけど、タイラーは男の言う言葉の意味をあまり理解できなくて男もタイラーの奔放さが手に負えないみたいで、大人で聡明なリンゼイに惹かれたのかもしれないけどリンゼイの前では男は窮屈そうで…きっと男はより「自分が自分でいられる相手」を探していただけなのかもしれないなと思った。ただひたすらにまっすぐで、相手を慮るには不器用すぎただけかもしれない。

最後に男は今まで録音していたテープを自分の手で壊す。男はボビーと言い合っているうちに何もかも全て嫌になったのかもしれないと思った。ボビーに愛していると叫んだこと、もう遅すぎたこと、今まで元彼女たちの話を録音していた自分、そうまでして作家として成功しなければいけない自分…。何もかも嫌になってテープを引き出したけれど、でも最後の電話で自分の進む道はもうこれしか残っていなくて、やっぱりそのテープを元に執筆を続けるしかないって悲しいけど気付いて、それで何も知らないような可愛い顔の仮面を被ってまた元の生活に戻っていくことを決めたのかなあ。確かに男は自分でも言うようにクズなんだけど、ただひたすらに哀しい人だなと観劇後はそればかり思ってしまった。でも、ボビーとの激しい言い合いで男の心は確かに傷を負ったかもしれないけど、そのおかげで少し晴れたのかもしれない。最後、フィアンセに電話で「いい天気だよ。雲はちょっとあるけど…うん、いい天気」とL.A.の空を説明するんだけど、それは男自身の心でもあるんだろうなと思った。

ちなみにこの舞台のセリフはTHE 翻訳というか、日本語を聞きながら英語が浮かぶようないかにもな翻訳台詞だったんだけど、その翻訳台詞にありがちな白々しさが男の言葉の白々しさとすごくよく合っていたと思った。「いつだって」というサムのセリフで始まって、「いつだって…」と囁く男のセリフで終わるのも凝ってるなーと思ったけど、本当はこれ以外にもセリフに細かい仕掛けとかあったのかもしれない。舞台の演出自体は音とかもほとんどないし、場面の転換もそれぞれのパートが変わるときのみ*2で、基本的には舞台上は2人しかいなくて本当にシンプル。そんな中で会話だけで2人の状況や感情、思惑を把握していく必要があって本当に集中力が必要だったけれど、その分たぶん見た人見た人で違う解釈を持つと思うから、見ている間だけじゃなくてその後もずっと味わっていられて個人的には好きな作品だと思った。何よりこの「男」を三宅健に演じさせるっていうのが最高。
大千秋楽の後に「見ながら本当苦しくて辛くて泣きたいのに、カテコで拍手しながら「やっぱりわたしはこの舞台好きだーーーー!」って思ってしまう不思議な舞台だ」ってツイートしたんだけど、まさにその通りで、このモヤモヤも含めて愛しいと思える素敵な舞台でした。

*1:サムに「一緒に逃げようって言われるかと思った」と言われて「全然…」とこぼしたり、リンゼイに「私とあなたがダメになった最大の原因は私の年齢だと思う」と言われて「それだけじゃないけど…」とこぼしたり

*2:ホテルマンがベッドメイクの要領でソファの種類と配置やベッドのサイズを変えていく。パントマイム風でおしゃれだったー!